再生医療の領域で、「幹細胞」がシワやたるみなどの症状を治療するエイジングケアに使われていることをご存じでしょうか? 幹細胞そのもの、あるいは幹細胞を培養する際にできる培養上清を加齢部分に移植(注入)して若返りを図る治療です。
これは、新たな幹細胞や培養上清を肌の中にいれることで、肌細胞を活性化し、コラーゲン線維やヒアルロン酸、エラスチンなどを若い頃のように活発に生成する機能改善を目指したものです。美肌と幹細胞の関係性を解説します。
幹細胞とは何でしょう
幹細胞とは、様々な細胞を生み出す能力をもった特別な細胞のことです。私たちの身体の中にも存在し、皮膚や血液のように、絶えず細胞が入れ替わり続ける組織を保つために、失われた細胞を生み出して補充する能力をもっています。
現在、再生医療で応用されている幹細胞には、iPS細胞(人工多能性幹細胞)・ES細胞(胚性幹細胞)・体性幹細胞(神経幹細胞、造血幹細胞、皮膚幹細胞、間葉系幹細胞など複数の種類)があります。
そのなかでも、脂肪由来間葉系幹細胞と、その幹細胞を培養する際にできる上澄み液が、美肌治療やエイジングケアに応用されています。
脂肪由来間葉系幹細胞を使ったエイジングケア
肌には2種類の幹細胞が存在しています。肌の表面にある表皮に存在する「表皮幹細胞」と、肌の真皮に存在する「真皮幹細胞」です。この真皮幹細胞は、コラーゲン線維やエラスチン、ヒアルロン酸などをつくりだす線維芽細胞に分化します。これらは加齢により減少します。
脂肪由来間葉系幹細胞により、真皮線維芽細胞が活性化されたというレポート(※)が、ロート製薬により報告されています。
※https://www.rohto.co.jp/news/release/2016/0127_01/
真皮線維芽細胞を活性化
脂肪由来間葉系幹細胞と真皮線維芽細胞を混合培養することで、I型コラーゲンやヒアルロン酸などの産生が促進することを確認されました。さらにコラーゲンは産生されたのちに、培養上清のなかで線維形成が促進されていることも確認されています。
体性幹細胞を用いた美肌臨床治療
以前より、脂肪由来間葉系幹細胞を用いた若返り治療が、再生医療として登場しています。これは、患者の皮下脂肪を脂肪吸引にて採取し、幹細胞を含む肌細胞と脂肪とを分離して、シワやたるみなどが気になる箇所に注入するというものです。
幹細胞を肌に直接投与することで、真皮線維芽細胞などを活性化し、加齢症状が改善されることを目指した治療ですが、効果を感じられる人がいる一方、思わぬ副作用が出た人もいます。
治療トラブルの報告も
シワをとるために幹細胞を注入したら、顔が腫れるなどの副作用が100件近く起きていたことが、NHKの特集番組で明らかにされました。
幹細胞を使った美肌治療はまだ研究段階であるため、医師の裁量で行っており、現状ではどの程度細胞を入れればいいのかなどの手法が確立されていないことも一因のようです。現在、エイジングケアに脂肪由来間葉系幹細胞を移植するという治療は、あまり見られなくなっています。
幹細胞の培養上清を使った治療
そこで新たに主流となっている美肌治療が、脂肪由来間葉系幹細胞が分泌する生理活性物質(サイトカイン)を利用した方法です。
幹細胞を培養する過程で、培養液に成長因子をはじめとした百数十種類の生理活性物質が放出されます。そこから幹細胞だけを取り除いた“上澄み部分”に滅菌処理を施したものが培養上清と呼ばれます。培養上清中には、EGF(上皮細胞成長因子・表皮幹細胞に働きかけて表皮細胞を増殖させる)、FGF(線維芽細胞成長因子・真皮幹細胞に働きかけて線維芽細胞を増殖させる)、IGF(インスリン様成長因子・細胞の再生を助けて皮膚を再生させる)、KGF(ケラチノサイト成長因子・上皮幹細胞に働きかけて上皮細胞を増殖させる)などが含まれます。
美肌治療に使われる幹細胞由来の培養上清
この培養上清をエイジングケアに応用した治療には以下のようなものがあります。
①塗布
最も手軽な治療法は、顔に塗布することです。ところが肌にはバリア機能があり、ただ単に塗るだけでは真皮層まで浸透しません。そこでイオン導入によって肌奥まで成分を押し込めたり、医療用の微細な針がついたダーマローラーやスタンプなどであらかじめ肌に穴をあけた後に塗布するといった手法がとられています。
この手法は、顔だけでなく、発毛・育毛治療目的で頭皮にも行われています。
②注射
加齢が気になる部分に直接注射で投与する手法です。ヒアルロン酸注射と同様の施術の仕方になります。
③点滴
身体全体のエイジングケアを行う目的で、培養上清を配合した薬液を点滴にて投与します。肌本来が持っている自己再生能力を高めて、シワ・シミ・くすみなどの症状改善や発毛・育毛を図る治療です。
幹細胞コスメは再生医療ではありません
再生医療が盛り上がりをみせるなか、コスメ業界にもその影響は波及しています。近年人気の「幹細胞コスメ」をご存じでしょうか? 植物由来幹細胞やヒト脂肪細胞順化培養液エキスなどが配合されている化粧水やクリームなどの基礎化粧品のことです。“幹細胞コスメ”と謳われてはいますが、実際に幹細胞は含まれておらず、上記に述べた培養液が一成分として配合されています。
美容医療の領域では、さまざまな医療手法によって真皮層まで成分を届けることができますが、化粧品の場合は角質層までしか浸透しないため、コラーゲンやヒアルロン酸を生み出す真皮で効果を発揮することができません。さらに純粋な培養液ではなく、他の美肌成分や品質を保持するための添加物も含まれているため、ただ単に塗布することで効果が期待できるのか疑問が残ります。
脂肪由来幹細胞の培養上清を使った美肌治療のご案内
当クリニックでは、皮膚再生に必要な生理活性物質を含む培養上清「ステムサップ」による美肌治療を行っています。興味のある方は、お問い合わせください。
※)ステムサップ
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