今やサプリメントは空前の大ブーム。
美容や健康に気をつけたいと願う人々が、健康食品やサプリメントを買い求め、1987年には2,900億円だった売り上げが、2017年には約4.2倍の1兆2,272億円まで伸びています※。
テレビではダイエット、美肌、健康、関節の痛み、花粉症対策などのサプリメントCMが花盛り。特に美容やエイジングケアでは、コラーゲンやヒアルロン酸、プラセンタなどを素材にしたサプリメントに人気が集中しています。
さらに近年の再生医療ブームを受けて、治療に使われる「幹細胞」に関連したサプリメントも登場しました。果たしてこのサプリメントは効果があるのでしょうか?
再生医療と幹細胞
まず最初に再生医療と幹細胞について解説します。
幹細胞とは、細胞を生み出し、他の細胞にも変化できる特殊な細胞のことです。私たちの体は、日々新陳代謝によって新しい細胞と古い細胞が入れ替わっていますが、その細胞を次々に生み出す能力があるのが幹細胞です。
再生医療では、この幹細胞を利用して、弱っている細胞を活性化させたり、傷付いた組織を修復したり、あるいは失った機能を回復したりすることを目指しています。
この再生医療で有名なのがiPS細胞を使った臨床実験です。2019年8月にヒトiPS細胞由来の角膜上皮細胞シート移植が世界で初めて実施されました。iPS細胞とは細胞を培養して人工的につくられた多機能生の幹細胞で、2006年に京都大学の山中伸弥教授らによって製作され、氏はこれにより2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞しました。
一方、現在多くの医療機関で再生医療に使われているものは、体の様々な組織に存在し、いろいろな細胞に変化することができる「体性幹細胞」です。なかでも脂肪のなかに存在する間葉系幹細胞は、採取が容易で、骨芽細胞・軟骨細胞・筋細胞・脂肪細胞などになることができるため、エイジングケア、疼痛治療、変形性膝関節症の治療、アトピー性皮膚炎などのさまざまな治療に使われています。
幹細胞サプリメントとは?
それでは、医療で利用されている幹細胞は、実際にサプリメントに配合されているのでしょうか?
答えはNOです。「幹細胞サプリメント」と聞くと、そのような製品を想像しますが、そうではありません。そもそも、幹細胞をサプリメントに配合すること自体が、厚生労働省に禁じられています。
果たして「幹細胞サプリメント」とは何なのか。現在、販売されている幹細胞サプリメントを調べると、2種類のアプローチがあることが分かりました。
①幹細胞培養上清液を配合したサプリメント
ひとつは、幹細胞を培養する過程で抽出したエキス(幹細胞培養上清液)を配合したものです。
このエキスには組織の修復、抗炎症作用などにかかわる多くの成長因子が含まれています。そのため、このエキスをサプリメントに配合することで、若返りや健康などに役立つイメージが想起されます。
②幹細胞を“活性化する”と謳われるサプリメント
ふたつめは、幹細胞を活性化すると思われる栄養素を配合したサプリメントです。これには幹細胞も、幹細胞培養上清液も含まれません。
たとえば、緑茶エキス、レスベラトロール、緑茶エキスなどの抗酸化力の高い成分を配合したり、プラセンタエキスやブロッコリースプラウトエキスなどの成分が幹細胞の成長と健康が促進すると謳っています。
サプリメントの効果と再生医療
それでは、幹細胞サプリメントを飲むだけで、幹細胞が増殖したり、活性化したりするのでしょうか?
そもそもサプリメントを飲むだけで、特定の効果が万人に得られるとしたら、それはもはや医薬品です。人気の高いヒアルロン酸のサプリメントですら、有効性には未だ科学的なデータの裏付けが取れていません。
あるいは摂取の方法も問題です。わずか数パーセントの有効成分を含んだサプリメントを経口摂取し、胃や腸で消化吸収される栄養素が、若返りや健康に夢のような効果がもたらす、というのは疑問が残ります。幹細胞、または幹細胞培養上清液の効果をきちんと体験したいのであれば、再生医療を受けることを検討したほうが、よほど有意義ではないでしょうか。
これは幹細胞サプリメントだけでなく、一般のサプリメントにも当てはまります。膝の痛みに悩んでいるのであれば、グルコサミンやコンドロイチンの配合されたサプリを飲むのではなく、培養・活性化した自分の幹細胞を膝兄イブに直接投与して、組織の再生を図る治療を受けることができます。あるいは更年期障害に悩む女性には、大豆イソフラボンのサプリではなく、幹細胞を静脈に直接点滴して全身の若返りを図る再生医療が用意されています。
いずれも今までの医療ではなかった、幹細胞がもつ組織修復作用や抗炎症作用、細胞増殖作用などに期待が寄せられた治療になります。
サプリメントに頼らなくても幹細胞を刺激する方法は、他にもあります。
たとえば、脂肪分の多い極端に偏った食生活は原因となるストレスが造血幹細胞に負荷をかけるという研究結果があります(※1)。バランスの取れた食事をきちんと摂取するだけでも、幹細胞の負担を取り除くことができます。
また、運動することによって海馬の神経幹細胞が活性化し、細胞増殖が増強することで、新生ニューロンの数が増加することが判明しています(※2)。
栄養と運動、そしてストレスを上手に消化することで、幹細胞を活性化してみてはいかがでしょうか。
(※1)金沢大学ナノ生命科学研修所
(※2)東京大学大学院新領域創成科学研究科