治療法がないとされている難病への新たな対応策、失った身体の機能の再生など、将来的には医療を大きく変える可能性もある再生医療。その中で治療に不可欠となるものが幹細胞です。幹細胞とはどこにあり、どうやって治療に必要な幹細胞を確保するのでしょうか？ 幹細胞の採取方法を中心に幹細胞について探ってみましょう。
幹細胞とはどんな細胞？
わたしたちの体は、小さなケガならば時間の経過とともに治ります。これは幹細胞がケガの場所に集結し、新しい皮膚や肉となる傷を治すからです。もともと体は一つの受精卵から細胞分裂を繰り返し、37兆個という莫大な数の細胞となって人体を形成していますが、その中には皮膚や血液のように細胞の寿命が短いものや、ケガして急遽新しい細胞を必要とする細胞があります。幹細胞はそれらの細胞を補充する役割があり、さまざまな組織の細胞になる前のおおもとの細胞と言えます。
幹細胞には、自分と同じ細胞を作りだす「自己複製能」と他の組織細胞に変化する「分化能」という２つの能力があります。同じ特性を持つ成体幹細胞には、臍帯血、骨髄、胎盤、脂肪の中に存在しています。
幹細胞をどんな治療で使う？
幹細胞を使う治療で有名なものは、白血病など血液のがんでがん剤（抗がん剤）治療の効果がなかった患者さんに行う造血幹細胞移植です。造血幹細胞移植には、骨髄移植と末梢血管細胞移植、臍帯血移植があります。移植する幹細胞は患者本人のものを使用することも、型が合う可能性の高い血縁者のものを使用することも骨髄バングに登録しているドナーや臍帯血の同種移植をすることもあります。
近年大きな注目を浴びているのが年齢を重ねたことによる不調を改善するエイジング症状全般への幹細胞療法です。年齢を重ねるごとに幹細胞の総数は減少します。そのため各臓器の機能は低下傾向になることも考えられます。傷が治りにくい、疲れが取れない、関節が痛いなどの症状は幹細胞が減少していることが関係しているかもしれません。そこで幹細胞を外から補う幹細胞療法が行われるようになりました。
造血幹細胞移植は自分の細胞以外にも型が合う血縁者や、骨髄バンク、臍帯血バンクのドナーからの提供も受けますが、幹細胞療法は基本的に自分の細胞のみを使用して治療に当たります。
幹細胞を採取する方法。
実際治療に使う幹細胞は、臍帯血、骨髄、胎盤、脂肪に存在すると前記しましたが、どうやって幹細胞を採取するのでしょうか。採取方法は、治療法によっても異なります。
造血幹細胞移植の採取方法
臍帯血や胎盤は出産時に提供に同意した妊婦さんから採取します。骨髄に関しては全身麻酔下で腰の骨から採取されます。末梢血幹細胞に関しては、白血球を増やす注射を３、4日行い造血幹細胞が増えたところで血液成分を分離する機器を使い採取します。
脂肪由来間葉系幹細胞の採取の方法
エイジングケアで使用される幹細胞は脂肪由来の間葉系幹細胞です。採取する場所は腹部などの脂肪が多い場所の皮下脂肪で、局所麻酔をしてほんのわずか取り、その後施設で間葉系幹細胞だけを取り出します。
採取場所によって異なる身体の負担
採取する場所によって身体への負担は変わってきます。
骨髄からの幹細胞採取
骨髄より採取する場合は、手術室で全身麻酔をして行います。通常３、４日間の入院が必要です。骨髄採取により血液を作る力が落ちることはありません。造血機能は2週間から１ヶ月で元に戻ります。
臍帯血からの幹細胞採取
お産の後で臍帯と胎盤に残った血液を採取するため、母親にも赤ちゃんにもまったく負担はありません。
腹部の脂肪由来間葉系幹細胞採取
腹部の脂肪採取は時間も施術全体で１時間程度、終了後そのまま帰宅することができます。採取する皮下脂肪はほんの数グラムのため、痩せていて腹部に脂肪がない場合も、高齢の場合も十分な脂肪を採取することができます。採取部位に数日間腫れが出ることがありますが、数日で回復します。
エイジング症状に対する幹細胞療法について
エイジングケアに対する幹細胞療法は、幹細胞採取後どんな過程で続けられるかというと、採取自体はすぐに終わりますが、その後幹細胞の培養、増殖に4週間ほどの時間がかかります。培養された間葉系幹細胞は、その後点滴で体内に戻され、血液やリンパ管に流れた間葉系幹細胞は体内を巡りながら、老化が起こっている部位、細胞が足りない部位、修復が必要な部位をみつけては修復、その後必要な細胞に分化して回ります。間葉系幹細胞は、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、神経細胞などさまざまな細胞に分化するため、関節や血管の若返り、肌の再生、更年期症状の改善など年齢を重ねたことで現れるさまざまな不調に総合的なエイジングケアが叶います。
エイジングケアで使用する幹細胞は、採取の方法も比較的容易で治療も点滴だけです。使用する幹細胞も元は自分の幹細胞のため、拒絶反応や同種移植のように移植片対宿主病などの合併症を起こす心配も大きく減らすことができます。
ただし、幹細胞移植療法は再生医療となるため、受けることができるクリニックは厚生労働省の厳しい基準をクリアして再生医療計画番号を取得しているクリニックに限られています。また自由診療となるため、全額自己負担です。
