再生医療と聞くと、今までの医療では難しかった病気にも高い効果があるという認識をお持ちの方も多いかしれません。
怪我や病気で失われた臓器を再生する、今まで根本治療がなかった病気が治る、老化した肌が若々しく蘇る…そんな未来が来るように、いま日本では幹細胞を使った再生医療に国を挙げて取り組んでいます。
再生医療の多くは治療を目的としていますが、はっきりとしたエビデンス(効果があることを示す証拠や検証結果・臨床結果)がまだまだ得られていないのが現状です。
そこでこのコラムでは、再生医療の効果について、さまざまな角度からトピックをご紹介します。
再生医療に応用される幹細胞とは
再生医療に応用されている主な幹細胞には、「ES細胞」「iPS細胞」「成体幹細胞」の3種類があります。
「ES細胞」とは、ヒトの受精卵を用いた万能細胞のことで、あらゆる細胞になれる能力をもっています。将来は人間になるはずの受精卵を使用するため、倫理的な問題をはらんでいますが、人工組織や臓器作製のための材料となる可能性があり、現在では基礎研究や創薬研究に応用されています。パーキンソン病や脊髄損傷、心筋梗塞などの治療に使用する細胞をつくる研究が進行中です。
「iPS細胞」も万能細胞ですが、こちらは血液や皮膚の細胞から人工的につくられる「人工多能性幹細胞」であるため、倫理的な問題はありません。2018年〜2019年には、iPS細胞から作製された角膜上皮細胞シートの移植や、ドパミン神経前駆細胞の移植がすでに行われていますが、経過観察は数年にわたって行われるため、効果の検証はこれからです。
また、iPS細胞から精子や卵子などの生殖細胞を作製する研究も行われており、生殖補助医療への応用が期待されています※。
※日本医師会「医の倫理の基礎知識 2018年版」より
https://www.med.or.jp/doctor/rinri/i_rinri/h07.html
「成体幹細胞」
私たちの身体の中にある骨髄や脂肪から採取した幹細胞のことで、特定の複数種の細胞にしか分化しない幹細胞です。ES細胞やiPS細胞と比べて応用範囲が狭いものの、安全性が高いと考えられています。
主な成体幹細胞に、以下のような種類があります。
・造血幹細胞 … 骨髄中に存在してすべての血液細胞に分化します。
・神経幹細胞 … 胎児期に成長し、脳の神経細胞をつくり出します。
・間葉系幹細胞 … 胚葉性組織(間葉)に由来する体性幹細胞で、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞など、間葉系に属する細胞へ分化します。
幹細胞の効果とは
一概に効果と言っても、幹細胞の応用の仕方により、どのような効果が期待されているのかが異なります。
公的な医療機関が主導している「ES細胞」「iPS細胞」では、幹細胞から制作した角膜上皮細胞シートの移植による失明状態の改善、パーキンソン病の完治・改善を目的として行われていますが、現在も治療後の経過観察中で、はっきりとした効果は公表されていません。
一方、「成体幹細胞」を用いた再生医療では、効果の認識が可能な治療があります。そのひとつが、造血幹細胞移植です。
血液細胞が骨髄でつくられる過程でがんになる白血病では、自己の造血系を破壊して新たに正常な造血システムを再建することで完治を目指す治療法です。これは、まさに体内の造血システムを再生する再生医療に他なりませんが、一定の効果があり、すでに安全性が確立されて広く行われている医療技術であるため、再生医療等安全確保法の規制の対象外となっています。
造血幹細胞は、血液細胞である白血球、赤血球、血小板のもとになる幹細胞で、骨の内側の骨髄や、臍帯(臍の緒)に豊富に含まれています。移植の方法には、骨髄にある造血幹細胞を採取して移植する骨髄移植、自分の血液中にある造血幹細胞を採取して移植する末梢血幹細胞移植、分娩後の臍帯血に含まれる造血幹細胞を移植する臍帯血移植があります。
移植の方法や自家移植、血縁者間移植、非血縁者間によって差はありますが、5年後生存率は大体50%という効果を挙げています※。
※「一般社団法人 日本造血細胞移植データセンター 2018年度 日本における造血幹細胞移植の実績」より
http://www.jdchct.or.jp/data/slide/2018/transplants_2018_JDCHCT_20190329.pdf
間葉系幹細胞の効果とは
「成体幹細胞」の一種である間葉系幹細胞は、現在多くの医療機関によって治療が行われています。間葉系幹細胞は、疾患部位に集積してさまざまな増殖因子やサイトカインを産生して治癒を促し、過剰な免疫反応を抑制し、抗炎症作用や血管新生効果があると考えられています。
現在、更年期障害の緩和治療、アトピー性皮膚炎の治療、変形性膝関節症の治療、慢性疼痛の治療などが行われています。当クリニックでもこの間葉系幹細胞を用いた治療を行っています。
治療を受けられた患者さまが、どのように効果を感じたのか、その声を一部ご紹介します。
— 120kgオーバーの体重が治療を受けはじめるとどんどん減っていき、70kg台まで落ちた。ヘモグロビン値や血糖値も安定していて、ほとんど糖尿病の治療をしなくてもいいくらいになった。(50代後半 男性)
— 重度の糖尿病で男性機能が落ちていたが、治療後に回復の兆しが見られた。(50代後半 男性)
— 会話していても人や物の名前が出てこない状態が、頭が回転するようになり、言葉もポンポンと出るようになった。(50代前半 女性)
— 治療中に骨折したが、その治りが早かった。整形外科の医師にも驚かれた。(40代後半 男性)
保険適用となる治療用幹細胞
すでに一定の効果が認められたため、公的医療保険が適用された幹細胞もあります。
これは、患者の骨髄液から間葉系幹細胞を取り出して、増殖培養することによってつくられる「ステミラック」です。点滴投与により、脊髄損傷による神経機能のダメージ(運動麻痺や感覚麻痺など)を改善することが期待されています。
薬価は1回当たり約1500万円ですが、公的医療保険の対象となるため、少額の治療費で受けることができます。