ここ最近、テレビや雑誌などで良く目にする “再生医療”や“幹細胞コスメ”。
私たちのからだは60兆個の細胞の集合体で、骨、筋肉、臓器、肌の髪の毛すべての元をたどると、たったひとつの細胞に行き着きます。それが“幹細胞”。
一体この“幹細胞”には、どんな種類や役割りがあるのでしょうか。
「再生医療」と「化粧品」の幹細胞は同じ?
私たちのからだの組織の元になる幹細胞ですが、加齢とともにその活動や増殖力が低下し、幹細胞は減少することが分かっています。そのことが原因で、様々な病気を引き起こしたり、肌の幹細胞が減少するとシワやたるみなどの老化減少として表れることが分かっています。
現在、採取できる幹細胞には「植物由来」「動物由来」「ヒト由来」の3種があることをご存知ですか?
【植物由来幹細胞】
植物も人と同じく、複数の細胞が集まり構成されていて、傷ついた細胞を再生させる「幹細胞」が備わっています。
植物由来幹細胞は、植物の幹細胞を取り出して人工培養で増やし、その細胞から抽出したエキスを利用するもので、リンゴ・アルガン・カミツレ・薔薇由来などがあるようです。
その中でも「ウトビラー・スパトラウバー」というリンゴの幹細胞は、4ヶ月間腐ることなく長期間の保存が可能とされています。
植物由来幹細胞には抗酸化物質が豊富に含まれていて、肌老化の原因となる活性酸素を除去し老化を防ぐ効果が期待され、特に幹細胞培養液を成分として化粧水や美容液などの化粧品に多用されているようです。
【動物由来幹細胞】
動物由来の幹細胞としては、幼羊の毛根や、羊のプラセンタ(胎盤)から採取された幹細胞を培養しています。植物よりも人の細胞に構造が近いため馴染みやすいと言われていますが、ウィルス感染などのリスクの心配もあり、日本ではあまり使用されていないのが現状のようです。
【ヒト由来幹細胞】
ヒト由来幹細胞には、皮下組織から抽出する脂肪幹細胞・歯茎の神経から抽出する神経幹細胞・骨髄から抽出する骨髄幹細胞などがあります。
ヒト由来幹細胞の特徴として、細胞の表面にカギ穴(レセプター)があり、そこにピッタリと合うカギ(リガンド)となる成長因子が結びつくことで組織再生能力が高く、再生医療や化粧品で様々な研究が進められています。この仕組みは植物由来幹細胞にはないものです。
・「化粧品」と「再生医療」の“幹細胞”の違い
幹細胞コスメと、再生医療で使用される幹細胞は同じなのでしょうか?
幹細胞コスメは、幹細胞自体ではなく、幹細胞を培養する時にしみ出す“培養液”を使用する、加齢で減少した皮膚の幹細胞の活性化や抗酸化などに有効な化粧品のことを言います。
一方、再生医療は、ヒトの“自己幹細胞”あるいは“他者幹細胞”を採取して培養した幹細胞を再びからだに投与するという治療です。再生医療は、疾病・不慮の事故・加齢などが原因で、欠損・損傷・機能低下した組織や臓器を細胞レベルから再生する根本治癒が可能になります。
化粧品と再生医療とでは、それぞれ用途や目的が全く異なるのですが、ヒトの幹細胞に関するエビデンスはどちらも同じで、徹底した環境下での研究開発が行われているようです。
厚生労働省は再生医療について次のように定義しています。
1、患者の体外で人工的に培養した幹細胞等を、患者の体内に移植等することで、損傷した臓器や組織を再生し、失われた人体機能を回復させる医療。
2、ないしは、患者の体外において幹細胞等から人工的に構築した組織を、患者の体内に移植等することで、損傷した臓器や組織を再生し、失われた人体機能を回復させる医療
(出所:厚生労働省・多能性幹細胞安全情報サイトより)
そもそも、「幹細胞」とは?
私たちのからだは、実に200種類以上の細胞で構成されていて、それぞれの細胞は、心臓、脳、腎臓、皮膚などで、絶えず色々な役目を果たしています。
そして、これら全ての細胞の元となっているのが“幹細胞”なのです。
・幹細胞の驚きの能力 …「自己複製」と「多分化」
幹細胞には、自分と全く同じ細胞をコピーすることができる「自己複製能」があり、いつでも幹細胞を絶やす事なく身体機能を維持しています。そして、病気や怪我などで組織が損傷しても、その時々で必要な細胞を再生する「多分化能」も備わっています。
そして3つめに、自分が働きやすい体内環境に保つことを幹細胞自身がコントロールしている、という驚くべき細胞なのです。
・「多機能性幹細胞」と「体性幹細胞」
出典:一般財団法人 日本再生医療協会/細胞の種類と特徴
幹細胞は2つに分裂するとき、1つは万能性のある幹細胞として残り、もう1つは必要な部位をつくる特定の細胞に変化していきます。
①何にでもなれる細胞「多機能性幹細胞」
ES細胞……受精卵からつくられる幹細胞で、すべての細胞になる能力がある万能細胞
iPS細胞……皮膚などから取り出した細胞を人工的に万能化させたもの(2012年、京都大学山中教授により開発)
②それぞれの役割を持つ細胞「体性幹細胞」
細胞分裂がある程度進んだ段階で現れる幹細胞で、それぞれ行き着く先が決まっている細胞です。特に骨髄の中にある間葉系幹細胞は、再生医療で最も研究が進んでいる体性幹細胞です。
・万能性の高い「脂肪幹細胞」の発見
血液系の細胞、神経系の細胞というように、役割が決まっている“体制幹細胞”の中で、“間葉系幹細胞”の骨髄細胞には、ES細胞やiPS細胞と同じどのように、どんな細胞にも変化できる「多分化能」があることが分かっています。実際再生医療では、安全性と有用性が確認されている骨髄移植による治療が多く行われています。しかし、骨髄からの幹細胞摂取は、確保できる細胞量も限られているなどの問題を抱えていました。
ところが近年、お腹などの脂肪からも骨髄細胞と同じ「多分可能」を持つ幹細胞があることが分かりました。この脂肪幹細胞は、比較的容易に採取ができる上、骨髄の100〜1000倍の豊富な幹細胞が確保できることで、現在は脂肪幹細胞を利用した再生医療の研究が盛んに行われています。
再生医療のキーパーソン「自己脂肪由来幹細胞」
・「自己脂肪由来幹細胞」の優位性
脂肪由来幹細胞は、極わずかなお腹などの脂肪や、皮膚からも確保できるなど、その高い増殖性と培養技術の向上によってたくさんの脂肪幹細胞の確保が可能になりました。
脂肪幹細胞を使用する再生医療の優位性は高く、例えば心臓発作の患者さんに、摂取した脂肪幹細胞を培養し、最良の状態で分化させた心臓幹細胞を移植してダメージのおこった心臓を修復するといった治療です。本来心臓にも幹細胞がありますが、それだけでは傷ついた心臓を治すことができませんが、何百万もの幹細胞なら治すことが可能なのです。
“自己脂肪由来幹細胞”を利用するメリットをまとめてみると、
1.自分の細胞を利用するので高い安全性が期待できる
2.多分化能を持った細胞である
3.からだへの負担が少ない採取や治療法
4.細胞が癌化する心配がない
5.遺伝子操作の必要がない
など、汎用性が高いことが分かります。
・「培養・分化技術」の向上
抽出されたわずかな脂肪幹細胞の培養は、GMP(薬事法:厚生労働大臣が定めた医薬品等の品質管理基準)に準拠したクリーンルームで徹底管理され行われています。
細胞を分化するために以前は、技術者が幹細胞を一つひとつ厳しいチェックをして長時間の根気を要する作業が必要でしたが、現在は培養技術の向上で分化誘導など全てスムーズに作業ができるようになり、より効率の良い培養が行われているようです。
日本では「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の第2条に「生物由来原料、生物由来製品」という規定があり、厚生労働省の生物由来原料基準を守る法律が定められています。
・「自己脂肪由来幹細胞」と「再生医療」
再生医療では、脂肪吸引によってご自身のお腹からわずかに幹細胞を採取します。それを人工培養で増やし、成長因子の分泌が活発な良い状態の幹細胞になって体内に投与し戻されます。さらに、戻された細胞から分泌される成長因子が、他の細胞の成長にも良い影響を与えることが確認されています。
自分の細胞を使用することで、アレルギーや副作用の心配無く、損傷された細胞を根本から再生する治療が可能となります。
脂肪幹細胞の、創傷治癒・分化・免疫調節・新生血管形成などの働きを利用して、美容皮膚科系では、傷などの再生、皮膚などのエイジングケア治療、顔面変性疾患など多くの治療に実用化されています。
その他、骨髄損傷、心筋梗塞、パーキンソン病、目や角膜の再生など難病治療への実用化に向けて、急ピッチで研究が進んでいます。
つい最近も、骨髄損傷の移植にiPS細胞を使う臨床研究を厚生労働省が了承する報道がありました。
他人の細胞を使用することによる拒絶反応や倫理上の問題など、再生治療を実用化するには、多くの課題をクリアしなければなりません。
それでも再生医療の有用性を考えると、これからの医学を変える可能性が十分にあり、100歳時代の到来も現実味を帯びて来ます。
当クリニックの取り組み
当クリニックで提供している「自己脂肪由来間葉系幹細胞による点滴療法」も、再生医療提供機関として厚生労働省から第二種の認可を受けています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000186471.html
(再生医療等提供機関一覧/第二種/治療)
再生医療を受ける際は、各種類を認識した上で検討してください。
※)自己脂肪由来間葉系幹細胞
更年期障害に対する自己脂肪由来間葉系幹細胞による点滴療法(再生医療第2種) :計画番号 PB3160029