エイジングが気になる30〜40代以降の女性が今、新たに注目しているのが、「幹細胞」の文字がついた美容法です。
ドラッグストアや化粧品カウンターなどでは「幹細胞コスメ」が、エステやサロンなどでは「ヒト幹細胞エステ」が、美容クリニックでは「幹細胞による若返り」が登場し、注目を集めています。
でもちょっと待ってください。これらの「幹細胞」って、同じものを指すのでしょうか? また、「幹細胞」によって本当に期待したような効果が得られるの? と疑問をもつ女性も多いはず。
そこで今回は、美容に応用される幹細胞とは何なのか、また幹細胞にはどんな種類や働きがあるのかを解説します。
幹細胞って何?
幹細胞とは、ひとことで言うと「自分を複製することのできる」「他の細胞に変化(分化)することのできる」特殊な細胞のことです。
この幹細胞は私たちヒトの体の中や、動物、植物にも存在しています。体のなかでは毎日細胞分裂が起こって、新しい細胞が次々と生み出され、不要な細胞は死んでいくことによって新陳代謝が行われています。髪の毛や爪が伸びる、皮膚が垢となって剥がれ落ちるなどの変化が目に見える新陳代謝です。
この細胞分裂を行う“お母さん細胞”こそが幹細胞なのです。
ヒトの幹細胞には、どんな細胞にもなれる「多能性幹細胞」と、決まった組織や臓器にしかなれない「組織幹細胞」の2種類があります。ニュースなどでよく耳にする「iPS細胞(人工多能性幹細胞)」や「ES細胞(胚性幹細胞)」は、どんな細胞にもなれる多能性幹細胞です。iPS細胞は人工的に生み出された幹細胞ですが、ES細胞はヒトの受精卵がもとになるため、利用には倫理問題を含んでいます。一方で、血をつくる造血幹細胞や神経系をつくる神経幹細胞は、決まった組織にしかなれない組織幹細胞ですが、じつは組織幹細胞のなかにも多分化能を持つ幹細胞があることが明らかになりました。それが骨髄や脂肪に存在する「間葉系幹細胞」です。筋肉や軟骨、脂肪、神経などに分化することから、現代の再生医療の中心的な臨床治療に使用されています。
美容に応用される幹細胞とは?
それでは、「幹細胞〇〇」と呼ばれるものやサービスには、実際に幹細胞が使われているのでしょうか? 勘違いをされやすいのですが、幹細胞を使った化粧品やエステ、あるいは美容医療の一部は、幹細胞そのものは使われていません。
これらはバイオテクノロジーで幹細胞を純粋に増殖培養したものではなく、幹細胞を培養する過程で抽出したエキスを使ったものになります。このエキスには組織の修復、抗炎症作用などにかかわる多くの成長因子が含まれています。そのため、このエキスを化粧品や美容液などに配合し、リバースエイジングに役立てようとするものを「幹細胞〇〇」と呼ぶようです。
抽出エキスのことは「培養液」とよばれ、植物・動物・ヒトなどの幹細胞を培養する際に作られます。
幹細胞培養液にはどんな種類があるの?
幹細胞培養液にはどんな種類があるのでしょうか? 化粧品やエステなどに応用されているもの、再生医療などに応用されているものを解説します。
植物由来
植物にもヒトや動物と同じように、新陳代謝を行う幹細胞が存在します。
「奇跡のリンゴ」と呼ばれているウトビラー・スパトラウバーをご存じでしょうか? 収穫後4か月ものあいだ、腐らず味が変わることがない驚きの抗酸化力をもったスイス原産のリンゴの一種です。このリンゴが何故こんなに鮮度をキープできるのかを研究した結果、抗酸化力の強い幹細胞が働いているからではないかという結果が出ました。そこでこの幹細胞を抽出して人工培養を行い「リンゴ果実培養細胞エキス」が作り出されました。このエキスがいわゆる植物由来の幹細胞培養液と呼ばれるものの一種です。
動物由来
動物にももちろん新陳代謝を行う幹細胞が存在します。
化粧品などに使われている動物由来の培養液には、幼羊の胎盤や毛根から採取された幹細胞が使われています。何故羊かというと、羊の幹細胞が人間の皮膚幹細胞に似ているため、アレルギー反応が起こりにくいのではないかと考えられているからです。ただし、羊の細胞とヒトの細胞は別物であるため、アレルギー反応が起きる可能性もあるといえます。
ヒト由来/h3>
前述の「iPS細胞」「ES細胞」「間葉系幹細胞」のなかで、主に美容に利用されているものは「間葉系幹細胞」を培養した際にできる培養液になります。培養中に幹細胞から放出される500〜700種類のサイトカイン群(成長因子、免疫調整因子、抗炎症性因子、神経再生因子など)や生理活性物質が豊富に含まれており、加齢によって活性が低下した細胞を呼び覚ます賦活成分として、様々な効果が期待されています。
スキンケア製品やエステ時のエッセンスに使われていますが、配合量が非常に少ない点や、化粧品であるための制約で、どれほどの効果が期待できるのか疑問が残ります。
一方、美容医療では、点滴・皮内注射などで体内に直接投与することで、全身のエイジングケアや肌の若返り治療、発毛治療などの再生医療を応用した先端の治療が行われています。
幹細胞は美容医療以外にも使われている
再生医療においては、培養液だけでなく、実際に幹細胞そのものを使った治療が行われています。間葉系幹細胞を使った最新の治療例をご紹介します。
アトピー性皮膚炎の幹細胞治療
幹細胞の抗炎症作用と免疫抑制作用に着目した、アトピー性皮膚炎の症状の緩和と治癒を目指す治療です。
アトピー性皮膚炎に対して幹細胞を静脈投与することで、抗炎症作用と免疫抑制作用により、皮膚の症状が改善し、肌の細胞が活性化されることが期待されています。
慢性疼痛の幹細胞治療
日本国民の1割以上が罹患していると言われる慢性疼痛の根本治療として間葉系幹細胞による治療が注目されています。
幹細胞が持つ抗炎症作用と創傷治癒能力の働きにより、慢性疼痛の症状改善が期待されています。
変形性ひざ関節症の幹細胞治療
自分の脂肪由来間葉系幹細胞を培養・増殖して、ひざ関節に注入する再生医療です。
血管やリンパ管の中を移動し、損傷した部位を自ら探して向かっていくホーミング効果により患部の細胞を修復する働きと、抗炎症作用、痛み抑制物質の産生能力により、関節内の炎症を抑えて痛みを緩和することが期待されています。