線維芽細胞という言葉、美容に興味がうすいと耳にしたことがないかもしれません。線維芽細胞というのは肌の表皮の下の真皮にも存在する細胞で、コラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸を生み出してくれる細胞のことです。しかし、その線維芽細胞を生み出す幹細胞については、多くの人が意識せずともニュースや新聞で、すでに何度も耳にしているのではないでしょうか? 耳にはするけれど、具体的にはわからない幹細胞にはどんな働きがあるのでしょう?
そもそも、幹細胞とは?
幹細胞には胚から人工的に作られる「ES細胞」、身体の中に存在している「成体幹細胞」、体細胞に遺伝子を導入した「iPS細胞」の3種類があります。
幹細胞という言葉を耳にしたことがある人の多くは、ノーベル賞・生理学賞を受賞して話題となった「iPS細胞」に関連しているのかもしれません。「iPS細胞」では、この細胞を元に新しい臓器や組織を作りだす再生医療の実現を目指しています。もともと身体に備わっている成体幹細胞には人間の身体にとって重要な働きがあります。
幹細胞が持つ2つの能力
人間の身体には数十兆もの細胞が存在しますが、日々細胞は膨大な数消滅しています。その消滅した細胞を補充し新たに作り出すのが幹細胞なのです。受精卵から成長し健康を維持していけるのも、けがした部位が治るのも幹細胞の働きがあるからこそなのです。
幹細胞には2つの能力があり、その1つは自己複製能という自分と同じ性質を持つ細胞を生み出す力です。そしてもう一つは「分化能」という自分とは異なる細胞を生み出す力も持っています。それは幹細胞がどんな形の細胞にもなれることを示しています。
再生医療の分野ではこの幹細胞の働きを利用して、骨髄損傷、心筋梗塞、糖尿病を、パーキンソン病、目や角膜の再生などなど全身の難治病の改善を目標に研究が続けられ、世界中の人々の期待を集めています。再生医療の範囲はとても広いのですが、身近なものとして幹細胞を補い、エイジング治療に利用するものがあります。わかりやすいのは肌の若返りです。
肌に存在する幹細胞
肌は大きく分けると真皮と表皮の2層に分かれていますが、幹細胞はそれぞれに存在しています。真皮に存在する幹細胞は線維芽細胞を生み出す役割があり、その線維芽細胞がコラーゲン、エアラスチン、ヒアルロン酸といった肌の美しさを保つために必要な成分を生み出してくれます。肌の美しさ、若さはすべて線維芽細胞の量にかかっていますが、もっといえば線維芽細胞を生み出す幹細胞にかかっているのです。しかし残念ながら年とともにコラーゲンや線維芽細胞が減っていくのと同じで、幹細胞も例外なく減ってしまいます。そのため、年を重ねると身体のいたる場所の回復能力が遅れてしまうのです。肌に関していえば、シワやたるみが顔に定着してしまいます。そのため、幹細胞を補うことが出来れば大いなる肌の若返りも期待できます。
また、幹細胞を補うエイジングケアは肌のみならず更年期症状など加齢によりおこるさまざまな不調の改善も望めます。もちろん男性の更年期症状ほかの不調にも同様の効果があります。
自己脂肪由来幹細胞による点滴療法
幹細胞を補う方法は点滴による補充療法です。幹細胞は骨髄にあることは以前から知られていましたが、採取するのに体に大変な負担がかかる方法でした。しかし、2000年になって腹部の皮下脂肪の幹細胞が確認され、簡単に採取できるようになったことから一気にその可能性が広がりました。採取した脂肪組織を専用の施設で培養して、培養後の幹細胞を点滴で補充します。それが「脂肪由来間葉系幹細胞の点滴療法」です。脂肪由来幹細胞は自分の脂肪を使用する場合と、製剤化した脂肪を使用する場合があります。
自己脂肪由来幹細胞(本人)
患者さん自身の脂肪細胞を採取する方法です。もともと自分の細胞なので補充しても拒絶反応が起こりにくく安全性が高い治療法と言えます。採取する細胞はほんのわずかなので腹部に脂肪が少ない痩せ型や、高齢である場合も問題なく行えます。採取時は局所麻酔で行うため短時間で終了します。ただし患者さんごとの培養を行う必要があり費用がその分かかります。
脂肪由来幹細胞(他人)
個人それぞれの幹細胞を培養するのは高額な費用がかかるため脂肪由来幹細胞を製剤化する方法があります。ただし自分の細胞ではないため、拒絶反応を起こす可能性もあります。
点滴で望める効果
脂肪由来間葉系幹細胞を点滴で補うと、幹細胞は血液に乗って血管の中を3ヶ月かけて巡り、細胞の損傷がないかパトロールします。幹細胞が損傷を見つけたら組織の修復・再生を行います。そのことで望める効果は、皮膚の若返りを始め、血管や関節の若返り、男女の更年期症状やそのほか年齢による不調、アルツハイマー病を始めとする物忘れの改善など年を重ねたことによって起こるさまざまな症状の改善に期待が持てます。皮膚の若返りに関しては、外側から手を入れるのではなく、細胞を活性化、新陳代謝を促進させるだけなので、違和感など微塵もない自然な若返りが実現します。
また肝硬変や糖尿病にも効果があるとされており、脂肪由来幹細胞の点滴には、男女、年齢問わずに非常に大きな可能性を持っているのです。
そんな全能性すら感じる夢のような治療法ですが、まだ新しく始まったばかりの治療のため、残念ながら治療を行なっているのは限られたクリニックで、費用も高額です。幹細胞を扱うためには、クリニックが再生医療第二種と第三種の計画番号を厚生省から取得する必要がありますが、番号を取得せずに治療を行なっているクリニックや美容外科も実在しています。幹細胞に興味を持ったならば必ず計画番号を確認できるクリニックを選ぶ必要があります。
再生医療は間も無く、大きな前進の時期を迎えることでしょう。難病治療にはもう少し時間が必要だとしても、エイジング対策としての再生医療はすでに高い関心を生んでいます。いずれ幹細胞を使用した治療法がエイジング治療の主役になる可能性があるのではないでしょうか。