幹細胞の移植と聞けば、多くの人が白血病などの血液のがんの治療に対する造血幹細胞移植のことを思い描くのではないでしょうか? 現在はそのような以前から行われてきた治療以外にも幹細胞を移植する治療が多く行なわれています。幹細胞の移植にはどんなものがあるのでしょうか?
幹細胞とはどんなものなのか?
そもそも移植に使用する幹細胞とはどんな細胞でしょうか?
私たちのからだは膨大な数の細胞で構成されています。その細胞の中には皮膚や血液のように、細胞の寿命が短く絶えず入れ替わっているものがあります。また、ケガや病気で傷ついてしまう細胞もあります。人体を維持するために失った細胞を補充する役割を持つ細胞が幹細胞です。
幹細胞には2つの能力があり、さまざまな細胞を作り出す能力(分化能)と自分と全く同じ細胞を作り出す能力(自己複製能)種類があります。現在移植に使われる幹細胞は組織幹細胞と言われる幹細胞で、造血幹細胞ならば血液系の造血機能など決まった臓器で代わりを作り続けています。オールマイティに何にでもなれるわけではありませんが、一定の分化能もあるため身体が必要としている細胞に分化できることもあります。
以下は代表的な幹細胞の移植治療です。
幹細胞移植する治療について
造血幹細胞移植
がん剤や免疫抑制療法だけでは治すことが難しい血液のがんや免疫不全症の患者などに対して完治を目的に行う治療法です。造血幹細胞には移植する細胞ごとに分けられますが、そのすべてを造血幹細胞移植と呼びます。
1. 骨髄移植
ドナーから採取した骨髄液を患者さんの静脈に点滴で移植。ドナーは白血球の型が一致する可能性の高い血縁者、もしくは骨髄バンクから探し、移植を行います。
2. 抹消血管細胞移植
血液中にある造血幹細胞を採取して移植する方法です。通常血液には造血幹細胞がないため白血級を増やす薬を投与した後、末梢血中の造血幹細胞が増えたところ血液成分分離装置を使って造血幹細胞を採取します。
3. 臍帯血移植
臍帯血は、母親と赤ちゃんをつなぐ臍帯と胎盤の中に含まれる血液です。提供に同意した妊産婦がドナーとなり分娩後に採取します。幹細胞が豊富に含まれているため、型が一致すれば移植に使えます。
間葉系幹細胞移植
間葉系幹細胞は、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞など間葉系に属する細胞の分化能を持つ細胞です。間葉系幹細胞を移植することで効果を期待できる治療は、アルツハイマー改善のほか、脳梗塞、脳出血の後遺症改善、関節の再生、糖尿病、関節性肺炎、肝炎、肝硬変、糖尿病、心筋梗塞、慢性腎臓機能障害の改善などがあります。まだ治験の段階の治療もあり、現状でははっきりとした効果が言えない治療もあります。
新しい移植治療として、これまで治療法がなかった脊髄損傷に対する再生医療が2018年に承認され、条件・期限付きで2019年4月より治療の申し込みが始まっている病院もあります。
幹細胞移植ですでによく行われている治療は、皮膚、血管、関節の若返り、男女の更年期症状改善のようなエイジング症状全般です。
幹細胞はどうやって移植する?
具体的な幹細胞の移植方法はどうやって行うのでしょうか? 治療法はそれぞれ異なるため、ここでは間葉系幹細胞のエイジング治療について紹介します。
まずは患者本人から移植する幹細胞を採取します。間葉系幹細胞は骨髄、胎盤、臍帯血などの中にもありますが、脂肪細胞の中にあることもわかっていますので、採取が行いやすく、多くの量を取得しやすい腹部などの脂肪から採取します。採取時は部分麻酔を行なった後、ほんのわずか皮下脂肪を採取します。その後専用の施設で、皮下脂肪から間葉系幹細胞を抽出したら、4週間かけて培養して増殖させます。大量に増殖した幹細胞は点滴にて体内に戻します。
幹細胞の治療メカニズム
▲脂肪由来の間葉系幹細胞は、必要に応じて分化します。
体内に取り込まれた幹細胞は、血管やリンパ管に乗り、3ヶ月の間体内を巡ります。幹細胞は病気や怪我で失われた細胞を新しく補う性質を持っています。体内を巡る過程で細胞が不足している場所、老化が起こっている場所、修復が必要な場所を見つけては修復し、そこで必要な細胞に分化します。
必要な細胞が補填されるだけでなく、培養された幹細胞は成長因子の分泌が活発になります。新しく取り込まれた幹細胞から分泌される成長因子が他の細胞にも良い影響を与え。全身から自分の力を引き出す手伝いをしてくれます。そのため美容面では皮膚の若返り、健康面では血管や関節の若返り、更年期症状の改善など加齢により現れた症状の改善が期待できるのです。
再生医療は新しい治療です
しかし再生医療はまだとても新しい治療です。厚生労働省から再生医療の安全性の確保などの法律が施工されたのも2014年とつい最近の話です。そのため最新の治療に関してはまだ研究の段階にあるものも多くあります。ニュースではセンセーショナルな取り上げられ方をすることも多く夢の治療法だと思いがちですが、実際には条件もあり希望をすれば誰でもが受けられる治療とは限りません。間違った情報に振り回されないようにするためにも冷静な情報の取捨選択は欠かせません。
また実際に受けることができるのは、厚生労働省の厳しい基準にクリアしたクリニックに限られています。厚生労働省の計画番号を持っていないのに、治療をすすめてくるクリニックには注意が必要です。