私たちの身体をつくる37兆の細胞は、常に新陳代謝をくり返し、古い細胞が新しい細胞へと入れ替わっています。
細胞のなかには核と呼ばれる構造体があり、その核の中に染色体があります。染色体とは、タンパク質にDNAが巻き付いた構造物のことを指します。この染色体の最末端にあるのがテロメアと呼ばれる部分で、細胞分裂のたびに短くなることが知られています。
今回はこのテロメアと幹細胞の関係について解説します。
寿命のカギを握るテロメアとは
テロメアは細胞分裂をするたびに数が減って、短くなってゆきます。ある一定の数より減少すると染色体が不安定となり、短くなりすぎるとその細胞はやがて分裂できなくなる「細胞死」という状態を迎えます。そのため、テロメアの長さが寿命の度合いを示すのではないかと考えられています。
また、テロメアが短いとがんや脳卒中などの疾患リスクが高まるとも考えられており、予防医学の分野では自分のテロメアの長さを検査して、老化度や疾患リスクを把握し、今後の生活改善に役立てていこうとする検査も登場しています。
テロメアには2つの働きがあります。
ひとつは染色体末端を保護する役目です。染色体がむき出しの状態でいると、互いにくっついてしまい不安定な状態になり、細胞死や発ガンの原因となります。テロメアはDNA配列のキャップとして先端に位置することで、染色体を厳重に守ります。
もうひとつは、染色体の末端を完全に複製することです。細胞分裂の際にDNAが正確にコピーされて、新しい細胞に正しく配分される安定性を担っています。テロメアが先端から消滅すると、それ以上は細胞分裂されないため、コピーエラーがなくなります。
テロメアが短くなることで、細胞の働きが弱くなり、例えば皮膚のハリのもととなるコラーゲンの生成能力が落ちて、たるみやシワが出てくるようになります。現代では、このテロメアを伸ばして老化を遅らせて、がんや脳卒中などの病気を防ごうという研究が進んでいます。
テロメアの消失を防ぐテロメラーゼ
短くなる一方のテロメアの短縮速度を遅らせたり、伸ばしたりする働きのあるとある酵素が1985年に発見されました。それが「テロメラーゼ」と呼ばれる酵素です。この酵素を発見したエリザベス・H・ブラックバーン博士たちは、2009年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
テロメラーゼは、テロメアの長さが短くならないような働きを持っている酵素です。再生医療に利用されるES細胞とiPS細胞は、半永久的に増殖をくり返すことが知られていますが、これはテロメラーゼの働きにより、どんなに分裂してもテロメアが短くならずに、DNAを複製できるためです。
このテロメラーゼは普通の細胞では働いておらず、たった3種類の細胞にだけ働いています。その3種類が、生殖細胞、幹細胞(ES細胞・iPS細胞を含む)、がん細胞です。
テロメラーゼが働く3種の細胞
それでは、テロメラーゼが働く3種の細胞について、それぞれの細胞について解説します。
生殖細胞
生殖において遺伝情報を次世代へ伝える役割をもつ細胞で、ヒトでは卵子や精子がそれにあたります。生殖細胞では、テロメラーゼの活性が高く維持されていて、DNAはその生物の種類で決められたほぼ一定の長さに永続的に保たれています。つまり、私たちは遠い祖先からほぼ同じ長さのDNAを受け継いでいて、種の保存がなされているというこになります。
幹細胞
新陳代謝で失われていく細胞を補うために、日々分裂をくり返す細胞のことです。体のいたる所に存在し、決まった細胞にしか分裂しない体性幹細胞や、胚細胞であるES細胞、iPS細胞がこれにあたります。
例えば骨髄の中にある造血幹細胞は、盛んに細胞分裂を行い、赤血球・白血球・血小板に成長します。テロメラーゼが働いて短くなったテロメアを戻す仕組みがあるため、大量の血液成分を日々つくることができるのです。ちなみに、白血病の治療法として知られる骨髄移植は、この造血幹細胞を移植する治療のことです。
がん細胞
無限に増殖を続けるがん細胞は、DNAの複製エラーがもとで発生すると考えられています。テロメラーゼが働くことで増殖が続いてしまうため、逆にテロメラーゼを阻害しすることでがん細胞の無限増殖を阻止できるのではないかと、研究が進められています。
テロメアを延ばす方法
人生100年といわれるこの時代に、いつまでも若々しくいたい、健康寿命を延ばしたい—
そんな希望を持つ人も多いでしょう。テロメアの消滅を防ぐ・テロメアの長さを伸ばすことで、健康長寿が叶うのでしょうか。
アメリカでの実験により、日常生活によりテロメアを延ばす方法が発見されました。それが「運動」「食事」「睡眠」「人間関係」です。ウォーキングなどの有酸素運動、野菜中心の食事、7時間以上の睡眠、友人やパートナーと良好な関係を保つことで、実験に参加した人のテロメアは平均で10%も伸びたということです※。
逆に、意図的にテロメラーゼを活性化する実験も行われましたが、マウスを使った実験では、皮膚の若返りと同時にがん細胞が多くできてしまうという結果になりました。人工的にテロメラーゼを増やすことは、諸刃の剣と言えるでしょう。
※NHK「クローズアップ現代〜生命の不思議“テロメア” 健康寿命はのばせる!〜」
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3974/